宮芸ブログ

絵と身体性

 絵を描くというのは、思った以上に身体を使います。デッサンをするときにべたっと手を画面につけて描く人がいますが、宮芸では出来るだけ手をつけないようにとアドバイスしています。それは手が汚れるだけでなく、結果的に画面がこすられて汚れてしまうからです。でも、それ以外にもう一つ理由があるのですが、それは手だけで絵を描いてしまうと絵が小さく部分的になってしまうという欠点があるからなんです。手だけで絵を描いて何が悪いのかっていわれそうですが、たしかに手をつけて固定して描けば安定して描けます。しかし、やってみるとわかるのですが描いている部分にしか意識が向かわなくなるのです。そのため部分的な見方になり、全体が見えなくなってしまい均質な画面が出来上がってしまいやすいのです。つまり大きさのない絵になってしまうということです。ではどうするのか?宮芸では、腕全体を使って描くことを推奨しています。そして、腕全体を動かすというのは微妙に腰やもう片方の腕なども使うことになり身体全体が連動して動くことになります。そうして描いていくと、全体を見る力が生まれ、絵もスケールを増してくるようになります。

パウル・クレーやカンディンスキーが教授をしていたバウハウスというドイツの総合造形美術学校(20世紀初頭(1919-1933))の基礎課程では、絵を描く前に体操(写真)をしていたというくらいで、やはり身体を使うことは重要視されていました。身体を通して自分の中のもっと深い意識に接触するということを知っていたんですね。やはりそこに接触してこそ芸術といえるものになるのでしょう。

bauhaus

バウハウスの体操風景

バウハウスの体操風景

ちなみに宮芸には、手先だけで描こうとすると手が震えてしまう方が何人かいらっしゃいますが、腕全体で描くことをマスターしてからは、全然他の人と遜色ない作品を作られています。あと、もし絵を描いていて肩が凝るという方は、手だけで描いている可能性が高いので、この機会に腕の動かし方をぜひ見直してはいかがでしょう?

さらに、腕全体で描くことは健康にもプラス?になるようです。ケネス・クラークというイギリスの美術批評家の「芸術家と老年」という文章には、ティツィアーノやミケランジェロを引き合いに出して、身体を用いる美術家のほうが年老いても文学者よりも力強い表現が可能であると述べています。平均寿命が40歳くらいのルネサンスの時代に、80歳を超えた二人です。しかも晩年の作品は人智を越えた魂の表現が見られます。たしか北斎も90歳くらいまで生きていたような。

ミケランジェロ作 rondaniniのピエタ

ミケランジェロ作 rondaniniのピエタ

葛飾北斎 晩年の作品

葛飾北斎 晩年の作品

さあ、1日2時間、10年専門家です。 がんばりましょー。

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